望遠による圧縮効果、月を撮るレンズ

 望遠レンズの特徴に圧縮効果というものがある。
 「圧縮効果」でググれば作例はたくさん出てくるが、どういった理屈でこの効果が現れるか解説しているページはあまりないようだ。考えてみれば簡単な話なのだが、具体的な数値を交えて図解する。

 例として焦点距離24mmと300mmの場合を比較してみる。それぞれの画角は以下の式で求められる。意味がわからなかったら読み飛ばしていい。

対角線画角:2*arctan(sqrt(36^2+24^2)*0.5/焦点距離)*180/pi [度]
水平画角:2*arctan(36*0.5/焦点距離)*180/pi [度]
垂直画角:2*arctan(24*0.5/焦点距離)*180/pi [度]
・焦点距離は35mm判換算焦点距離、水平画角・垂直画角はアスペクト比3:2の場合。
・ピント位置無限遠の場合。
・歪曲収差は無視する。そのため魚眼レンズは除く。
・Googleで計算するとarctanがradで計算されるため、180/piをかけて度へ変換している。

 この式で水平画角を求めると以下のようになる。
24mm:74度
300mm:6.9度
 この時24mm時の画角が以下のようなイメージとなる。なおオレンジの被写体と青い被写体は同じ大きさで描いている。


 この図にオレンジ色の被写体が同じ倍率となるように300mmの画角を重ねてみる。撮影距離等が異なるため省略を入れている。


 青い横線がオレンジ色の被写体のある距離において写る横幅となる。オレンジは写る範囲全体に対して10%の横幅を持つため、横幅36mmの撮像面に対し3.6mmの大きさで写る(35mm判の場合)。オレンジの大きさを基準に300mmの画角を重ねたのだから、24mmの場合も300mmの場合もオレンジは同じ大きさで写る。
 では青い被写体の大きさを見てみよう。


 見ての通り写る範囲に対しての大きさが24mmと300mmでは変わっている。300mmでは全体の8.9%の大きさで写るが、24mmでは3.3%しかない。
 実際に撮影した写真は以下のようなイメージとなる。

24mmの場合

300mmの場合

 青は同じ位置関係、同じ大きさの被写体であるにもかかわらず、レンズによって大きさが変わってしまう。
 24mmでは遠い被写体が小さく写るため青が遠くにあるものとわかりやすいが、300mmではあまり大きさが変わっていないため、遠近感が消失して見える。
 これが圧縮効果の理屈だ。
 ちなみに上の図、数値は被写体を適当に配置した図から実測した数値なのであまり厳密ではないし、そもそも被写体の距離を明確に定めていない。


 ちなみに、この計算を用いれば大きさと距離のわかっている被写体に対して所望の大きさで撮影するのに必要な焦点距離を算出できる。
 例として月を考えよう。

 月の大きさ、距離はWikipediaより以下の通りである。

月・地球間距離:L = 384400km(平均)
月の直径:D = 3476km

 以上より月の視直径は、月は球状であるため
δ = 2*arcsin(D*0.5/L)*180/pi = 0.518 [度] (= 0.00904 [rad])
 となり、上に上げた垂直画角の式より画面の短辺いっぱいに写す場合は
f = 24*0.5/tan(δ[rad]/2) = 2654mm
 となる。
 短辺のM = 0.8倍で写す場合は
f = 24*0.5*M/tan(δ[rad]/2) = 2123mm
 であり、どのみち画面いっぱいの月が必要な場合は焦点距離2m超えが必要になることがわかる。800mm F5.6にx1.4テレコンでCanon APS-Cでも換算1800mmにも届かないのだが……スーパームーンの時ならばもう少し条件は優しいはず。

 式をまとめると以下となる。
・被写体が球状の場合
f = l*0.5*M/tan(arcsin(D*0.5/L))

・被写体が平面の場合
f = l*M*L/D

・被写体の視直径がわかっている場合
f = l*0.5*M/tan(δ/2)

f : 35mm判換算焦点距離 [mm]
l : 35mm判撮像面長さ(対角:43.2mm、水平:36mm、垂直:24mm)
M : 像面上の被写体の占める大きさ
L : 被写体までの距離 [m]
D : 被写体の大きさ [m]
δ : 視直径 [rad]

 LとDは単位が揃っていればmだろうとkmだろうと天文単位だろうとなんでもいい。
 被写体が球状の場合でも、天体のような視直径が小さいものは平面の場合の式で計算して実用上差し支えない。上の月の例では小数点以下一桁目まで同じになった。
 このように計算すれば天体や富士山などの撮影に必要な焦点距離を予め確認できる。こんな確認したことは私は一度もないが。
 ちなみにM42オリオン大星雲はWikipediaによれば視直径66'×60'だそうだ。これを撮像面短辺いっぱいに写そうと思うと換算1375mmとなる。暗いだけで月より大きかったのか……! R200SSにCanon APS-Cで1280mm、上の式をMについて解けば短辺の0.93倍の大きさに写る。ちょうどいいくらいか。

 とはいえ、天体を考えると必要な焦点距離が軽々と1mを超えてくる。天体こわい。具体的に言えばGINJI-200FNとSXPとAstro6Dがこわい。あーこわいなー(チラッチラッ

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