センサーを焼かないために

 世はミラーレス全盛期。大手二社を含めた各社がフルサイズミラーレスをラインナップし、SIGMAも来年にフルサイズミラーレスを出す。もはやミラーレスをラインナップしていないのはPENTAXくらいになった(現行品では。Qってまだ生きてたっけ?)。
 さて、ミラーレスは構造上常にセンサーで光を受けている。そのため、太陽を写したままの状態ではセンサーを焼いてしまう危険がある。実際にセンサーを焼いた例は検索すれば出てくるだろう。なぜか富士フイルム機とオールドレンズの組み合わせが多いようだ。
 ではセンサーを焼かないためにはどのようなことに気をつければよいだろうか。これに関しては誤った情報が堂々と流布されており、真に受けてしまうと高価なカメラを壊す危険性がある。ここで正しい情報とその理屈を解説する。

 結論から書くと、注意する点は
・実絞りならばできるだけ絞る
・ピント位置は近接状態とする
 の2点だ。
・太陽に向けたままにしない
・使用しないときはレンズキャップを付ける
 は言うまでもない。
 これはレンジファインダー時代は常識であったようだ。

 ではなぜこんな記事を書いているか。それはセンサー焼けを調べると「絞りは絞られている状態のほうが焼けやすい」などという大嘘が出てくるからだ。
 このような思考に至る理由は理解できる。「絞ると像がシャープになる = 光が一点に収束している = 焼けやすい」と考えたのだろう。光が一点に収束すると焼けやすいことは合っているが、絞りにより錯乱円が小さくなるのは違う現象だ。


 単レンズの出しっぱなしアンダーコレクションを例として挙げる。誇張して描いているが、レンズ周辺部を通る光は球面収差により近軸領域での焦点距離よりもかなり手前で収束する。この影響で像面での錯乱円は大きくなる。


 像面部を拡大したものと、開放での錯乱円を示した。(最小錯乱円及び最もコントラストが高くなるピント位置はこの図とは違うが、ひとまず近軸領域での焦点距離に像面があるものとして作図している)
 では、このレンズを絞るとどうなるか。絞りにより遮蔽される光束を灰色で示す。


 直径の半分程度(約2段分)まで絞った場合、右に示す錯乱円の直径はかなり小さくなる。確かにこれだけを見ると光が一点に収束したように見えてしまうが、それは間違いだ。単位面積あたりの光束の強度(照度)という視点が欠けている。


 レンズ周辺部を通過する光束は錯乱円の灰色で示す領域に照射されているだけであり、赤色の中心部の強度には寄与していない。つまり絞ろうが絞るまいが赤色部分の照度は変わっていない。むしろ、開放では周辺部も熱されるために最も照度の高い中心部から熱が逃げるのを阻害し、焼けるリスクを高める。
 また、この図はとりあえず球面収差がアンダーコレクションの例を挙げたが、フルコレクションやオーバーコレクションの場合はレンズ周辺部を通る光も錯乱円中心の照度を上げるのに寄与している。


 これが球面収差フルコレクションの概要図だ。赤丸の部分はレンズ最外周部の光束だが像面で錯乱円中心部を通る。そのため、絞ることによって錯乱円中心部の照度を下げてセンサー焼けリスクを低減できる。
 これは各レンズの収差設計によって変わるため一概には言えない。しかし全レンズに共通して言えることは「絞ることで像面へ到達するエネルギーの総量を減らすことができ、センサー焼けリスクを低減できる」ということである。

 「レンズ交換時に焼ける」という情報もある。レンズ交換によりバックフォーカスが長くなった状態で無限遠にある太陽にピントが合う状況は、レンズのピント位置がオーバーインフのときしかない。MFのオールドレンズであればオーバーインフにできないものが殆どであるし、そもそもセンサー焼けを気にするのであればピント位置は無限遠から外しておくべきだ。オーバーインフになるAFレンズでは関係あるだろうが、あまり気にしなくてもいいだろう。
 レンジファインダー機であったならば焼けるのはセンサーではなくシャッター幕であり、シャッター幕はセンサーよりも手前に位置しているためレンズ交換時に焼けるリスクは高くなる。しかしミラーレスには当てはまらない(EOS Rシリーズを除く)。
 また、太陽の輻射は波長約500nm(青と緑の間)をピークとする可視光の領域がほとんどであるため、「可視光が収束している = 熱も収束している」と考えて差し支えない。赤外領域が主になるような色温度の低い物体の輻射熱ではレンズ交換時のリスクは高くなるが、それでセンサーを焼くほどのエネルギーがあるかは疑問だ。

 「絞ると焼ける」という情報はレンズの原理など全く理解せずなんとなくの感覚で語っているだけの妄言である。効果がないどころかリスクを高めるだけの行為を、さも理屈上も正しいかのように語り推奨するのは無責任であり害悪と言っていい。
 この妄言を信じてセンサーを焼いても発言者が修理代を持ってくれるわけでもない。自分の高価なカメラを壊さないためにも正しい情報を得て、また各情報の妥当性を自分の頭で考えるようにしたいものだ。

1 件のコメント:

  1. はじめまして。
    「超広角の14mmでF22まで絞ったら問題ないだろう」
    とα7R IVで真昼の太陽を撮影し
    後々センサー焼けが心配になり調べていたら、絞ったら焼けると言うサイトがちらほら。
    白い壁を撮影しても何も無く、センサー面も全くの無傷なものの
    「なんて愚かな事をしてしまったんだ・・・」と悔恨していた時にこの記事を見つけ、精神的に救われました。

    太陽にカメラを向けた時間も1秒弱なので
    よく考えれば、何の問題も無いのですが、間違った情報が堂々と公開されていると不安になりますね。

    正しい情報をありがとうございます。

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