©Lマウントアライアンス

 フルサイズミラーレス旋風吹き荒れる2018年。ライカ、パナソニック、シグマの3社はフォトキナ2018にて『Lマウントアライアンス』を発表した。
 これはライカがすでに販売しているライカSL、TL、TL2、CLに採用されているLマウントを、ライセンスが付与されたパナソニック・シグマも共通して利用し、各社のカメラ・レンズを相互に利用できるものだ。仕組みとしてはマイクロフォーサーズ規格と似たものとなる。

 さて、我らがSIGMAはこのLマウントアライアンスへの参加でどのような動きを取るか。フォトキナにて今後の方針が発表された。
・2019年に35mm判Foveon機をLマウントで出す。
・今後SAマウント機の開発は行わない。
・SAマウントレンズに関しては当面の間継続して販売する。
・SA-L、EF-Lのマウントアダプタを開発し、Lマウントカメラと同時に発売する。

 1993年発売のSA-300から続いたSAマウント機25年の歴史が、幕を下ろした。

 正直に言えば、寂しさがある。ショートフランジバックのLマウントしか採用しないということは、一眼レフは今後出る可能性がゼロということだからだ。
 しかしカメラの動作が全体的に遅いFoveon機にとってミラーレス化というのは正統進化である。さらにsdQがミラーレス化した時点でマウント変更も必然だった。

 DMC-G1が登場して10年。35mm判も各社出揃い全盛期を迎えるミラーレスでも、いまだに一眼レフがアドバンテージを持つ部分は存在する。遅延ゼロの光学ファインダーとAF速度だ。
 ファインダーは言わずもがな。AF速度に関しては位相差のみで合わせる関係上、精度を犠牲にしても速度は速い(ミラーレスの像面位相差でもコントラスト式の追い込みを省けば似たような速度になる可能性はある)。
 しかし、それらの利点がどこで生かされるかといえば、主に動体撮影だ。
 ではSIGMA製カメラで動体撮影を行うか?
 SAマウント機において最速の連写速度を持つSD1でも5枚/秒(画質設定を下げれば6枚/秒)であり、7枚撮影すれば書き込み完了までに1分半を要する。そもそもAFが弱くAF-Cで撮影してもピンボケ写真を量産するばかり。MFで動体を追え、少ない枚数で上がりを得られる特殊な技能を持っていなければ使えるものではない。それならばEOS Kissでも持ってきたほうが歩留まりがいいだろう。
 つまり、SIGMA製の一眼レフにおいては「動体に強い」というメリットはそもそも存在していない。ならば光学ファインダーを捨て去ることにデメリットはない。
 sdQが光学ファインダーを捨てて失ったものはほぼなく、代わりに得たものはSD1では夢のまた夢だった完璧に近いピント精度だ。私はsdQ発表時点では否定的だったが、Foveon機にとってミラーレスという道を進むことは今考えれば当然であった。

 さて、ではミラーレス化が必然であったFoveon機では、フランジバックの長いSAマウントを継続して採用する理由があるか?
 まったくない。マウント変更も当然の選択である。

 改めてSAマウントというものを考えてみると、SIGMAにとってビジネス的にはお荷物であった可能性が高い。
 汎用性がゼロで数がろくに出ない自社専用マウントでも、ラインナップに乗せるということは製造と在庫管理に要するコストがどうしてもかかってくる。
 SGVのマウント交換サービスとMC-11の登場、さらにsdQの初値8万円という価格で販売本数は多少は上向いただろう。しかしコスト面だけで見ればデメリットのほうが大きかったのではないか。
 しかし、それでも、たとえAマウントを省こうと、たとえKマウントをやめようと、SAマウントだけはすべてのレンズでラインナップしてくれた。
 これはお金の数字だけを見ているならばできることではない。現にAマウントもKマウントももう出ていない。SAマウントがKマウントより売れていたなどとは思えない。
 今現在の豊富なSAマウントレンズラインナップは、ひとえに自社カメラを購入しているユーザへのSIGMAの誠意だろう。
 やろうと思うのであれば「ContemporaryではSAマウントを出さない」「古いレンズのSAマウントはディスコンにする」などの選択肢もあった。
 しかし、今現在SAマウントはSIGMAの全レンズを欠けることなく網羅している。
 こうして考えるとSIGMAには感謝しかない。
 いままでSAマウントを維持してくれたSIGMAにも、素晴らしい写真体験を与えてくれたSAマウント自身にも、ありがとうとお疲れ様を伝えたい。
(とはいえ、SAマウントレンズの製造はまだしばらく続くが……)

 SIGMAは次の選択肢にLマウントを選んだ。数という基準ではライカもSIGMAも弱いが、パナソニックのカメラならば数は出るだろう。Lマウントアライアンスがどこまで盛り上がるかは今現在未知数だが、今後SIGMAは自社専用の数が出ないマウントを維持するという苦しみからは解放される。
 これもひとえにSIGMAレンズの評価の高さがなしえたものだろう。プレスリリースではライカより「光学設計とレンズ製造の分野では、確固たる地位を築いて」いると評価されている。
 SA-300を発売した1993年には、電子接点を備えたKマウントを利用することができず、数多ある安価な互換レンズメーカーの一つとして他社と協業することもできず、自社専用マウントという茨の道を進むしかなかったゆえのSAマウントだったのではないかと想像する。
 現在、特にSGV以降のレンズの高評価によって良いパートナーに恵まれることができた。
 SIGMA製カメラの大きな転換点として、新たな門出を素直に祝福したい。

 ここからは新製品の話をしよう。
 来年、SIGMAから35mm判Foveon機が発売される。現時点では本機に関する情報は全く無い。
 Foveonの35mm判化については懸念が二つある。一つはダストプロテクタだ。
 sdQHの実物を見ればわかるが、SAマウント自体はフィルム時代からのマウントであるため当然35mm判をカバーしているものの、デジタルから追加されたIRカットを兼ねたダストプロテクタの枠を考慮するとマウント径が非常に小さくなる。現在のAPS-Hはプロテクタ内径を考えると限界ギリギリの大きさだろう。このプロテクタを続けるのならば、少なくともSAマウントでは35mm判を採用するのは不可能と思っていた。
 ではLマウントではどうか。おそらく、不可能に変わりはない。取外しを可能にするためにバヨネットの爪内径より小さく、数mmの枠を持ったプロテクタを配置するとEマウントよりも実質の内径が小さくなるだろう。また、ショートフランジバックであるがゆえに厚みのあるプロテクタを配置できない可能性があり、配置できてもレンズのバックフォーカスが限られてしまう。Lマウントの仕様は公開されていないため確認できないが、20mmのフランジバックに縛られずバックフォーカスを極限まで縮める設計を許容している場合はプロテクタの配置は不可能だ。
 そのため、おそらくIRカットはセンサに積層することになるのではないだろうか。その場合のダスト対策はどうなるかは不明だ。可能性は非常に低いが、ボディ内手ぶれ補正を搭載してダスト対策を加えてくれるならば最高なのだが。ライカのカメラにボディ内手ぶれ補正がないため望みは薄く、Lマウントの規格がボディ内手ぶれ補正を認めているかもわからない。
 二つ目は35mm判センサの膨大なデータ量をどうするか。山木社長は過去、「35mm判のFoveonは実現可能だが、中判のような使い勝手になる」と語っている。これはデータの処理時間を指したものではないかと思われる。
 SD1からsdQ/sdQHに変わって書き込み時間がかなり短くなったのは非常に快適だったため、もう一度SD1の水準まで戻るようなことはできれば避けてもらいたいものだ。
 データ量にも関連することだが、Foveonセンサの構造がどうなるかも不明である。Merrillまでの1:1:1構造へ戻ることはおそらくなく、Quattroの4:1:1のままなのではないかと考えている。
 もう一点、Foveonを他社と共通のマウントにすることへの懸念もある。過去にも記事にしている周辺部の色被りである。
 とはいえ、これはQuattroでは非常に少なくなったため補正は容易なのかもしれない。
 しかしオールドレンズ母艦としての運用では、レンズ情報が無いため流石に補正は不可能だろう。
 ひとつ馴染めるかどうか未だにわからないものがある。私がミラーレスを嫌っている二つの理由のうち片方のEVFについては流石に慣れた。しかし、フォーカスバイワイヤはArt70mmを使っていて苛立ちしか感じない。ミラーレスネイティブとなるのならばおそらくレンズはフォーカスバイワイヤとなるのだろう。これだけは耐えられるかわからない……

 レンズに関しては28mm F1.4と40mm F1.4は確実に購入する。
 特に40mmは非常に期待が高い。105mm F1.4の感動をもう一度味わえるのではないかとわくわくしている。
 40mmはSIGMA製レンズとしては初めてシネレンズとしての使用を前提として開発されている。そのためフォーカスブリージングが少ない可能性がある。スチルでは特に関係ない性能だが。
 また、今回のレンズからフードがロック付きとなったようだ。どのようなものかは実物を触るまでわからない。早く実物を触ってみたいものだ。
 28mmも40mmほどではないものの非常に高性能を予想させるMTFだ。サジタルがメリディオナルよりも低めだが、これは105mmと同様に絞ったときに改善しやすいサジタルの収差を残すというバランス取りをした結果ではないだろうか。おそらく1段ほど絞れば画面全域で均質な描写を得られるものと思われる。

 SAマウント機の開発が行われないという情報は、レフ機を求めていた私には残念な情報ではあったが、はっきりと明言してくれているだけありがたい。E-5はいつの間にか販売が終了しており、Qマウントマクロは未だ発売されない。そのようになんの音沙汰もなくフェードアウトする製品もあるなか、SAマウントの今後についてアナウンスするのは非常に誠実な対応をしてくれている。

 さて、ほかにもこまごまとした言いたいことはあるのだが、このあたりにしておこう。
 SIGMAはまだまだ面白いものを見せてくれる。こんなに見ていて楽しいメーカーはない。

 私はメガネがないと生活がままならないド近眼である。乱視は殆どないのだが、右目が-8.25D、左目が-7.50Dという度数のメガネを使用している。
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【追記】
更に度数は進み、乱視も入ってきた。
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 ところで、メガネも光学製品である。そのためカメラオタクが興味を持ち、こだわりを持ち、複数本持つのは自然の摂理と言える。

 現在所有しているメガネは以下の通り。

・ZEISS プンクタール ガラス球面 n=1.60, v=41.7 (999.9)
・伊藤光学 ガラス球面 n=1.52, v=58 (GOLD&WOOD)
・ホッタレンズ(TSL) 1.7AE1-SV ガラス非球面 n=1.70, v=52 (Amiparis)
・東海光学 ベルーナJX-CVf プラスチックオーダーメイド両面非球面 n=1.70, v=36 (999.9)
・TALEX プラスチック偏光球面 n=忘れた (ZEAL OPTICS)
・忘れた プラスチック球面 n=忘れた (Line Art)

 nは屈折率、vはアッベ数を表す。アッベ数の意味については後述。

 この内メインで使用しているのはZEISSのプンクタール1.60だ。また、この他にHOYAのガラス球面、999.9のニコンOEMプラスチック両面非球面を持っていたがレンズ交換により現在はない。低屈折率のプラスチック調光レンズも持っていたが、こちらは現在諸事情によりフレームごと持っていない。
 これ以外にも小学生の頃からさまざまなメガネを使い続けてきた。その経験からベストなメガネレンズ選びについて私見を述べたい。


  • 「いいレンズ」とは?

 材質や収差の知識がない人は、レンズを選ぶときはメガネ屋が提示する選択肢から選ぶことがほとんどだろう。その場合に提示されるものは
1. 材質はプラスチックのみ。
2. グレードの選択は屈折率の高低で、高屈折率のほうが高い。
3. 設計は球面か非球面か両面非球面か。非球面・両面非球面のほうが高い。
4. 耐傷・防曇・ブルーライトカットなどの機能性コーティングの有無。
 これら4種類の組み合わせくらいになる。レンズメーカやアッベ数などは特に知らされないことが多い。
 知識がない人がこれらの情報から「いいレンズ」を選ぼうと思うと、評価基準は値段くらいしかない。そうなると「高屈折率・両面非球面・機能性コーティング付き」が最高のレンズとなる。
 さて、そのレンズは本当に「いいレンズ」なのだろうか? 結論から言うと、少なくとも私は絶対にそのレンズは選ばない(遊びで作る場合を除く)。
 ここで「いいレンズ」とはなにか、定義を決めておく。ここで言う「いいレンズ」とは、収差が少なく視界に違和感を生じないレンズだ。他者からの見た目は評価に含まない。
 上述の高いレンズをその基準で見た場合、「いいレンズ」と評価することはできない。では高いお金を出したぶんは何に反映されているのか? 答えは「薄さ」だけだ。
 一般的なメガネ屋では薄さ至上主義のような説明をされることが多く、視界の良好さについては説明が難しく個人の感じ方にも差が大きいこともあって触れられることは皆無と言っていい。そのため、この記事で「いいレンズ」の条件を説明しよう。


  • プラスチックか、ガラスか?

 現代のメガネレンズは99%がプラスチック製だ。しかしガラスという選択肢も一度考慮に入れてみてほしい。
 ガラスのメリットは
・耐傷性が高い。(コーティングにもよる)
・透過率が高い。
・アッベ数が高い。(高屈折率の場合)
・屈折率が高い。
・枠入れ時の歪みがほぼない。
・耐熱性が高い。
 などがある。
 透過率の高さはメリットがわかりにくいかもしれないが、わずかでも明るければ瞳孔が小さくなることで収差の影響が減り、視界の品質が良くなる。また、プラスチックレンズの場合はレンズを枠に固定するときの力でレンズが僅かに歪んで度数にムラができてしまうのだが、ガラスの場合はそれがない。
 私は視界の良好さを追求するならばガラスをおすすめする。

 とはいえ、当然デメリットもある。
・衝撃で破損の危険がある。
・フレームの選択肢が少ない。(ハーフリム・ツーポイント等が不可)
・重い。
・非球面設計がめったにない。
・売ってない店も多い。
 このうちフレームの選択肢と重さは人によっては致命的にもなる。またスポーツに使用するならば破損時のことを考えて避けたほうが無難だ。
 そのため、ここは好みで選んでしまっても構わない。


  • 屈折率は高いほうがいいのか?

 ここまでの文章を読んでもらったならば高屈折率は良くないという結論になることは分かると思う。その理由を説明しよう。
 屈折率を高くして得られるメリットを列挙すると
・レンズが薄くなる。
・ごくわずかだけレンズが軽くなる(ことが多い)。
 以上だ。

 ではデメリットの方を挙げると
・アッベ数が低くなる。
・場合によってはごくわずかだけレンズが重くなる。
・値段が高くなる。
 まずはアッベ数とはなにか説明しよう。簡単に説明するとアッベ数とは色収差の出にくさだ。一般的に屈折率が低いほどアッベ数は高くなり、数字が高いほど色収差が少ない。一般的なメガネ用レンズでは59が最高、30が最低となる。(私の所有メガネのうちホッタレンズの1.7AE1-SVが屈折率1.70でアッベ数52を確保しているのは例外中の例外なので参考にしてはいけない)
 このブログを読むカメラオタクならば色収差(この場合倍率色収差)とはどういうものか知っていると思うが、念のために簡単な説明をするとレンズの端の方で白黒の境界部を見た際に赤や青の色にじみが見えることを言う。
 私の個人的な感覚ではアッベ数42あれば色収差が気になることは少なく、それ以上のアッベ数52、58では42のときと大きな差は感じない。逆にアッベ数36では色収差が大きすぎて常用する気にならない。車の運転中にサイドミラーを見たときなんかは低アッベ数では気になって仕方がない。このあたりは個人の感覚によって許容範囲が変わる。36でも気にならない人はいるだろう。
 また、色収差が発生すると解像力も低下する。これはSIGMAの105/1.4が85/1.4に比べ色収差を改善したことでMTFも大きく向上したことからも分かるだろう。
 次にレンズの重さについて。一般的には高屈折率でレンズが薄くなれば無条件に軽くなると思われているが、それは不正確だ。というのも、屈折率が高くなると比重も高くなってしまうためである。例として東海光学のプラスチック素材でn=1.60と1.76の比重を比較すると、1.30と1.49となっている。つまり高屈折率レンズを使用することによって体積が86%以下まで薄くならなければ、逆に重くなってしまうということだ。
 ここでフレームのレンズ幅が小さく、度数も低い近視用メガネを考える。レンズ中心部は0.8〜1.5mm程度の厚みが必要で、レンズ幅が小さければ体積に一番差が出る周辺部は使われず、度数が低ければ厚みの差も非常に小さくなる。この条件では体積86%以下を達成できない組み合わせも稀にだが発生する。また、重くなるとまではいかずとも期待したほどは軽くならないことは分かるだろう。
 値段に関しては言わずもがな。高い金を払ってろくなメリットもなく色収差のデメリットを買いたいか? 私はゴメンだ。


  • 非球面は見え方が良い?

【追記】
 以下の文章は球面の補正についての説明と体感について書いており、乱視の補正が入ったレンズについてはこの限りではない可能性がある。

 メガネ屋でSEIKOが作っている球面と非球面の比較用什器を見たことがある人は多いと思う。球面レンズでは糸巻き型の歪曲収差が大きく見え、周辺部の像が流れているようなやつだ。ついでに「はっきり見える範囲が非球面のほうが広い」と書いてあったりする。
 率直に言うが、あれは詐欺だ。
 まず球面と非球面の比較だが、あれは非常に深いカーブを持ったレンズを凸面側から離れて見させている。実際のメガネの装用環境では浅いカーブのレンズを凹面側から目のすぐ近く(一般的に角膜頂点間距離12mm)で見ている。これだけ条件が違えばなんの参考にもならないに決まっている。実際に球面レンズのメガネを使っている人なら分かると思うが、球面でもあれほどの歪曲が発生することはない。そもそも、アレは糸巻き型歪曲が出ているが近視用メガネで出るのは樽型歪曲だ。
 また、非球面のほうが広い範囲ではっきり見えるという広告だが、それも嘘である。正確に言えば「球面・非球面以外の全ての条件を同一に揃えれば正しい」と言えるのだが、そんな設計をするメーカはない。
 では非球面とは何をしているのか? 答えはまーた「薄さ」だ。
 同一度数でメニスカス凹レンズを薄くするにはベースカーブ(対物側・凸面のカーブ)を浅くすればいい。ただし単に浅くするだけでは非点収差が増加し、周辺像質が急激に悪化する(この辺は超広角レンズに出目金が多い理由と同じ)。非球面はその悪化した非点収差を球面レンズと同等レベルまで戻すという役割を担っているのだ。
 つまりまるで視界を良くする技術かのように宣伝されている非球面だが、その実はレンズを薄くするためだけの技術なのだ(東海光学のベルーナMUクリアリータイプやCVfはそうとも言い切れないが)。
 ちなみに実際の歪曲収差についてだが、手元のZEISSプンクタール球面、ホッタレンズ1.7AE1-SV非球面、東海光学JX-CVf両面非球面で比較するとプンクタール球面が一番少なく、東海光学の両面非球面が一番大きい。以前持っていたニコンの両面非球面も樽型歪曲が非常に大きかったので、非球面で歪曲が小さいという宣伝文句も果たして信用できるのだろうか。これに関しては私の知識不足で理論的な説明ができないが……
 歪曲の具合の参考として、メガネ越しにスマートフォンのカメラで撮影した画像を載せる。レンズとスマートフォンの距離、被写体までの距離等を固定して撮影できるわけではないので、あくまで参考だ。

ZEISSプンクタール(球面)

東海光学ベルーナJX-CVf(両面非球面)

 (ちなみに、ハイカーブレンズと言われるレンズは深いカーブを持つにもかかわらず見え方が悪いと言われているが、これはフレームそり角の影響で光軸が外を向くためにカーブが深くても非点収差が強く出るからである。真正面から見れば頂点間距離にもよるが見え方は良いはずだ)

 さて、つまり非球面設計というものの特徴は「薄い」。それで終わりだ。「いいレンズ」かどうかにはあまり関係がない。
 どころか、歪曲を考えると球面のほうがいいとすら言える。しかし樽型歪曲が大きいレンズも光軸中心付近でものを見る場合にルーペを通したようにわずかだけ大きく見えること、他者から見たときに輪郭のズレが小さく見えることというメリットもあるので、一概に悪いと断定できるものではない。私は嫌いだが。


  • おすすめのレンズ

 今までの話をまとめると、「いいレンズ」とは
・できればガラス
・高アッベ数(≒低屈折率)
・できれば球面設計
・機能性コーティングはお好きに
 というレンズとなる。視界の良さを追求すると、最も安いレンズが最も良いレンズとなるのだ。
 具体的なおすすめとしてはやはり私もメインで使用しているZEISSのプンクタール1.60か、ホッタレンズの1.7AE1-SVだろう。特に1.7AE1-SVは屈折率1.7でアッベ数52というスペックは唯一無二のものだ。非球面設計であるが歪曲もそこまで気にならない。ただしレンズ銘柄決め打ちで考えると売っている店が全く見つからずに苦労する可能性も高い。私は隣のそのまた隣の県までメガネを買いに行ったことがある。
 また、ZEISSや1.7AE1-SVでなくとも、プラスチックであってもこの方針は覚えておいて損はない。特に度数が強くない人の場合、高屈折率のレンズを選ぶのは無意味と言っていい。どうしても自分の視界よりも他者からの見た目を気にするという人でなければ、一番安いレンズを選ぶべきだ。
 メガネ屋の立場で考えれば高いレンズを売りたいのは分かる。ここで説明したような内容を全ての客に理解してもらうのも土台無理な話であるし、具体的に厚みの数字を提示して営業できる薄さ偏重の風潮になるのは十分理解でき仕方のないことだろう。
 なので視界の良さで選びたい人は自分で知識を付けて自分で選ぶしかない。この記事を読むことで良いメガネライフを送ってもらいたい。