かつてSIGMAから発売されていたマクロレンズ、MACRO 70mm F2.8 EX DG。硝材のディスコンにより販売中止となった通称『カミソリマクロ』が、SGVのArtラインとして復活した。


 まずは外観だが、旧70mmと比べるとわずかに細く長くなった。フードがだいぶ長くなったため、フード込みではかなり長くなった印象がある。重さに関してはどちらもほぼ同じくらいだ。むしろ新型のほうが10g軽くなってすらいる。
 大きな変更はフードだ。旧70mmはなんとねじ込みフード。脱着の利便性としては最悪だ。逆付けもできない。そしてフォーカシングに応じて繰り出す前玉にフードが付く構造だ。これは一般的。
 新しい70mmはバヨネットとなり、脱着の利便性が大きく向上した。また、フード固定部が前玉部ではないため、フォーカシングによってフードが動かない。これがマクロ撮影ではありがちな「近接撮影時に被写体にフードがぶつかる」「近接時にフードの影が被写体に落ちる」といった現象を防いでいる。このフードはとても良くなった。
 最大の特徴はフォーカスバイワイヤになったことだ。私はフォーカスバイワイヤが大嫌いなので先入観を持って試したが、思ったほど悪くはなかった。特にAFで使う分には、当たり前だがなんの違和感もない。ただHSMに慣れていると駆動音がうるさい。動画でAFを使う人は確実に駆動音が録音されてしまうだろう。
 バイワイヤなためMF時に回転速度に応じてピントの移動量が変わるが、その変わり方が唐突な印象がある。ピント合わせを行う際、ゆっくりと回転させると0.1mm単位の微小なピント調節を行うような速度だが、そこから少し速度を早めると突然5mm単位くらいでの荒い調整をするような速度に加速する。前者は遅すぎ、後者は早すぎる。そしてその中間がなく唐突に速度が切り替わるため、ピントの行き過ぎが発生する。三脚を立て厳密なピント合わせを行うには良いが、手持ちでややラフにピント合わせをするならば扱いにくい。
 しかしこれは電子制御によるものだ。ファームウェアアップデートによって改善する可能性はある。現状に慣れた人にとってはいまの操作感を捨てることにもなるので、一概にアップデートされたほうがいいとは言い切れないが……
 今回の70mmのためにsdQ/sdQHのファームアップが行われ、電源OFF時にフォーカスが無限遠へと戻るようになった。しかしレンズ交換時には当然自動で縮んでくれはしないため、レンズ交換はいちいち電源を切るかMFで無限遠に戻す必要がある。SD1以前のカメラでは電源OFF時に無限遠復帰の機能もない。SD10以前のカメラでは公式に非対応を明言されているが、手持ちのSA-300で試したところ「AFは動くがMFは反応なし」という動作だった。そのためSD10あたりでもAFだけならば動くと思われる。ただし無限遠に戻す手段が存在しない。
 ちなみに同ファームウェアでSFD時に高速側SSを1/500までに制限する機能が追加された。私が社長にリプライしたものだ。こうした意見を取り入れてくれるSIGMAが私は大好きだ。ちなみに低速側の制限はないんでしょうかね……?
 全体的なデザインもいままでのArtレンズとはやや文脈が異なっているように感じる。その一番の理由は「細い」からだと思うが、マウント部がストレートに伸び距離指標窓がないだけで見た目がだいぶ変わって見える。

 光学性能だが、まずは旧70mmと比較してみよう。マクロレンズであるが近接での評価は難しいので、無限遠で評価する。

・中央解像度

新70mm旧70mm
F2.8
F4.0
F5.6

・周辺解像度(APS-H 左下)
新70mm旧70mm
F2.8
F4.0
F5.6

 旧70mm、優秀すぎやしないだろうか。初めてカメラを買ったときに同時に買ったレンズでありながら実力をチェックせずに使っていたが、これはすごい。『カミソリマクロ』と呼ばれるのもわかる。
 中央ではF5.6で両者同等だが、F2.8、F4.0では旧70mmが明らかに勝っている。
 周辺部ではF2.8で新70mmがごくわずか良い。F4.0以上では差異はないように見える。
 「さすが最新設計の新型は違うな!」と言おうと思っていたのだが、少なくとも無限遠に関しては旧型に対するアドバンテージはない。これは新型が進化していないというわけではなく、旧型が優秀すぎるのだ。

 以下、作例。

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【sd Quattro H, 70mm F2.8 DG MACRO | Art 018, @70.0 mm F5.6, 1.6sec, ISO100】

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【sd Quattro H, 70mm F2.8 DG MACRO | Art 018, @70.0 mm F5.6, 0.5sec, ISO100】

_DQH0959
【sd Quattro H, 70mm F2.8 DG MACRO | Art 018, @70.0 mm F2.8, 1/4sec, ISO100】

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【sd Quattro H, 70mm F2.8 DG MACRO | Art 018, @70.0 mm F5.6, 1.3sec, ISO100】

 解像力は旧型と変わらず良い。カフリンクスの写真では馬のマークを見ると1px単位で解像しているのがよく分かるし、チェーンの写真は掃除していないのがよくわかってしまう。ボケも良いが、ソケットの写真を見るに口径食が見られる。旧型よりも前玉径がわずかに小さくなっており、その影響だろう。
 無限遠の性能では旧型の後塵を拝したが、近接域では『カミソリマクロ』は健在だ。また、絞らずとも周辺部が流れるようなことがなく均質に写るのも優秀だ。
 ある種伝説的とまで言える『カミソリマクロ』の後継を名乗るだけあって開放時の口径食以外の問題は全く感じない。105mm F1.4を使ったときのような強烈な衝撃はないが、非常に優秀なレンズに仕上がっている。

 現状、旧型の70mmは入手が困難だ。『カミソリマクロ』の描写を求めて旧型を探していた人にはこのレンズはおすすめできる。これはまさしく『カミソリマクロ』の正当後継だ。
 旧型はフードの使いにくさ、AFのうるささ、フォーカスリング操作感の品質といった点で時代遅れな面もある。今買うならば新型で間違いない。最近のSIGMAにしては軽く小さいのも特徴だ。
 ニコンユーザーの方は、AF-Pレンズで前玉が伸びるものが出るよう祈っておこう。

 SIGMAより105mm F1.4が発売された。今年のCP+で発表された中で最も期待していたレンズだ。


 今回、レンズの付属品がいつもより多かった。レンズケースに取り付けるストラップ以外にストラップがもう一本、ビスが二本とビス用の六角、三脚座用の化粧リングが一個。
 ストラップは三脚座に取り付けるためのものだ。私はストラップをつけるにしてもPeak Designのアンカーを付けるので無用。ビスはアルカ互換三脚座の底面に取り付け、対応する雲台で脱落防止ピンとして働く。私はこのタイプの脱落防止に対応する雲台を持っていないし個人的には邪魔に感じるので付けない。
 三脚座は化粧リングがついてくることから分かる通り、脱着可能となっている。このため50-100mmや500mmのような上質な回転はなく、90度刻みのクリック感もない。しかしこの大きさのレンズに三脚座は個人的には不要に思うので、脱着できる方がうれしい。500mmはともかく50-100mmも脱着可能でもよかったなぁと思わないでもない。
 しかしアルカスイス互換になったのはうれしい。マンフロット405もアルカスイス互換に改造している身にはわざわざプレートを付けなくて済むのはありがたい。


 ハードウェア面ではフードがバヨネットではなく超望遠に付くようなネジでの脱着となったことも特徴的だ。フード先端がゴムとなっていることから考えてもおそらく前玉側を下に立てて置くことを想定したものではないかと思われるが、このサイズのレンズで立てて置くことがあるかは疑問に思ってしまう。バヨネットで脱着が楽なほうがよかった。

【追記】
 フードがバヨネットでない理由は直径が大きいと強度面でバヨネットにできないかららしい。

 今回からEマウント用も用意されている。レンズの全長がフランジバック分だけ長くなるためSLR用のパッケージでは対応できなくなるのでどのような対策を取るのかと思ったが、付属のレンズケースが上げ底構造になっていた。これなら詰め物を取るだけでEマウントにも対応できる。

 描写に関してだが、CP+のセミナーの内容を聞くに素晴らしい写りをするはずだ。
 では、以下作例。

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【sd Quattro H, 105mm F1.4 DG HSM | Art 018, @105.0 mm F2.8, 1/1000sec, ISO100】

_DQH0889
【sd Quattro H, 105mm F1.4 DG HSM | Art 018, @105.0 mm F2.8, 1/500sec, ISO100】

_DQH0891
【sd Quattro H, 105mm F1.4 DG HSM | Art 018, @105.0 mm F2.0, 1/2500sec, ISO100】

_DQH0899
【sd Quattro H, 105mm F1.4 DG HSM | Art 018, @105.0 mm F1.4, 1/2500sec, ISO100】

_DQH0900
【sd Quattro H, 105mm F1.4 DG HSM | Art 018, @105.0 mm F1.4, 1/2000sec, ISO100】

_DQH0910
【sd Quattro H, 105mm F1.4 DG HSM | Art 018, @105.0 mm F1.4, 1/400sec, ISO100】

_DQH0918
【sd Quattro H, 105mm F1.4 DG HSM | Art 018, @105.0 mm F5.6, 1/60sec, ISO100】

_DQH0921
【sd Quattro H, 105mm F1.4 DG HSM | Art 018, @105.0 mm F1.4, 1/1250sec, ISO100】

_DQH0928
【sd Quattro H, 105mm F1.4 DG HSM | Art 018, @105.0 mm F1.4, 1/4000sec, ISO100】

_DQH0940
【sd Quattro H, 105mm F1.4 DG HSM | Art 018, @105.0 mm F1.4, 1/800sec, ISO100】

_DQH0943
【sd Quattro H, 105mm F1.4 DG HSM | Art 018, @105.0 mm F1.4, 1/250sec, ISO100】

 素晴らしいの一言。撮っている最中、sdQHのファインダーを覗いているだけでもこのレンズはすごいと思ったが、現像して確信した。このレンズは本当にすごい。
 まず解像力が素晴らしい。8枚目の古民家は後ろの草にピントがあっているのだが、開放でコレだ。これが本当に有効径75mmの大口径レンズ開放の描写なのだろうか。
 軸上色収差は5枚目の厳しい条件かつ開放では緑色が見える。しかしその次の6枚目ではわずかに紫と緑が見えるが、拡大しなければわからないレベルだ。CP+のセミナーで軸上色収差が低減されたと語られていた内容は確かだった。他の写真も開放中心だが、それでも5枚目以外に目立つ軸上色収差は見られない。
 ボケ味も十二分に良い。STFやBBLの暴力的なまでになめらかなボケを知っているとそれらには及ばないが、だがしかし、思わずそれらボケのために様々なものを捨てている特殊なレンズたちと比べてしまいたくなるボケなのだ。SIGMAが「BOKEH-MASTER」を標榜しているだけはある。ボケ味が良いだけのレンズはあまたあるが、そのうちこの解像力を併せ持っているものはまずないだろう。
 また、被写界深度の薄さもとびっきりだ。さすが105mm F1.4。有効径としては135mm F1.8と同じなのだが、105mmのほうがシビアに感じた。私は普段ピントに厳密ではなく大抵は中央一点でAFを合わせコサイン誤差など気にせず撮影しているのだが、このレンズではコサイン誤差の存在がはっきりと分かってしまう。こういうときはフルタイムMFがありがたい。

 さて、恒例の解像力チェックだが、これだけの描写を見せつけられて点光源がどうのこうの言う必要があるだろうか。このレンズにはそんな無粋なものは不要である。という理由1割、めんどくさいという理由が9割で割愛する。あれ、すごく手間がかかるのだ。

 私は普段レンズやカメラのレビューにポエムをつけることはないが、このレンズを言葉で言い表そうとするとどうしても詩的になってしまう。
 何気ない風景でもこのレンズを通すだけで「らしく」なるのだ。開放からキレるピント面と柔らかなボケが被写体をドラマチックに浮かび上がらせる。ここまでならば大口径レンズによくある謳い文句だが、このレンズのすごいところはその両方を極めて高いレベルで実現しているところだ。
 ArtラインのDG単焦点レンズ全てを所有している私の個人的な意見としては、フラグシップを名乗るにふさわしいクオリティに仕上がっている。14mmの周辺画質や逆光耐性も素晴らしかったし、85mmや135mmの解像・ボケもよかったが、それでもこのレンズが一番だ。それほどこのレンズの衝撃はすごかった。

 このレンズの不満点だが、フードがバヨネットだったらよかったなぁ、というだけ。描写には文句のつけようもない。重量も多少重めではあるがサイズがさほど大きくもないので、120-300mmのように構えていて辛いということはまったくない。このレンズのレビューでは判で押したように「重い、でかい」と言われているが、105mm F1.4というスペックならばこんなものだろう。むしろNikonのものが特別小さいのだ。なによりたった1.6kgでこの描写が得られると考えれば軽いものである。
 私はこの105mmを1日使っただけで持っているレンズの中で一番好きなレンズに躍り出てしまった。
 このレンズならば何でも撮れる。風景も人も、すべての被写体を魅力的に浮かび上がらせてくれるだろう。