近年、カメラにおいて一眼レフという形式は下火だが、未だに一眼レフでしか得られない光学ファインダーには一定の人気がある。
 その光学ファインダーだが、性能を決める要素には大きく分けて光学系の設計とフォーカシングスクリーンの拡散性能の2種類がある。今回はこのうちスクリーンの拡散性能とは何かについて解説する。

 まず、一眼レフの光学ファインダーをシンプルに表現すると交換式レンズが対物レンズ、ファインダー光学系が接眼レンズのケプラー式望遠鏡であると言える。本来ケプラー式望遠鏡で見える像は倒立像であるが、ミラーとプリズムでの反射によって正立像となる。望遠鏡と違うのは焦点位置にフォーカシングスクリーンが設置されている点だ。
 これをミラー・プリズム等の要素を省いて簡略化して表現したものが下図である。


 さて、フォーカシングスクリーンの役割は光を拡散させることであるが、そもそもなぜ光を拡散させる必要があるのか。仮に拡散性がゼロの素通しスクリーンで考えてみよう。


 人間の目の瞳孔径は最大で約7mmと言われている(このせいで人間の目のF値がF1.0であると言われているのは嘘であるとわかるのだが、この話はまたの機会に)。
 この状態では上図の赤の範囲を通る光しか瞳孔に到達せず、撮影レンズの周辺部を通る光は目で確認できない。
 具体的にはファインダー倍率A倍(50mm時)、瞳孔径7mmで見えるF値は50÷7Aとなる。

※参考
 接眼光学系側の赤線の直径は瞳孔径=7mm。撮影レンズ側の赤線の直径をd、撮影レンズ側の焦点距離をf1、接眼レンズ側の焦点距離をf2とするとd÷f1 = 7÷f2。dについて解くとd = 7×f1÷f2。
 対物側赤線範囲のF値はf1÷d = f1÷(7×f1÷f2) = f2÷7となり、接眼側F値と同一となる。
 接眼側焦点距離f2はファインダー倍率定義より50÷Aのため、F値は50÷7A。
 交換レンズの焦点距離が50mm以外でも赤線の直径も変わるためF値は変わらない。

 実際に計算するとEOS Kiss X10の0.87倍ではF8.2、SD1の0.95倍ではF7.5、EOS 5D4の0.71倍ではF10だ。このF値よりも明るい部分の光束は下図のように瞳孔に到達できない。


 いずれにしても、拡散が全く無いファインダーではF1.4クラスのレンズでピント合わせはとてもできるような数字ではないということがわかるだろう。

 そこでフォーカシングスクリーンに拡散性をもたせることが必要となる。
 スクリーンで光が拡散すると、上の図で確認できなかった光束でも一部が瞳孔まで到達するようになる。下図の青色が拡散後の光だ。


 ただし、拡散性能が低ければ同じ位置からの光でも瞳孔まで到達しないし、同じ拡散性能でも下図のようにより外側の光束は確認できない。


 この拡散性が強ければより外側の光も確認できるようになるためピント合わせが容易になる。しかし、拡散性が強すぎると瞳孔よりも外側に行ってしまう光の成分が増えるため、暗くなる。これがフォーカシングスクリーンの拡散性能となるわけだ。

 本ブログでは過去にこのスクリーンの性能を実測した事がある。

フォーカシングスクリーンの拡散性を実測する | 五海里https://illlor2lli.blogspot.com/2015/11/blog-post_62.html

 できればいろいろなカメラを持っている人にこの実験を試してほしいと思っているが、他に実測をしてみた人を見たことがない。