最小錯乱円とは、レンズを通った光束が最も小さい直径となる箇所のことである。ということは通常であればその位置がピント位置となる。
 しかし、そうならない特殊な場合も存在する。
 代表的なものはソフトフォーカスレンズだ。

 トップの画像はソフトフォーカスレンズに代表される球面収差アンダーコレクションの収差を示している。
 この図での最小錯乱円、ピント位置の直径をそれぞれ示したものが下の図だ。


 見ての通り、直径だけならばピント位置の光束は最小錯乱円でのそれに比べ3~4倍ほどになっている。
 ここで直径だけではなく、光束の強度も加味してみる。


 最小錯乱円では外周部が最も強度が高く、中心は弱い。実写では前ボケがこの形態となり、バブルボケ・二線ボケの様相となる。
 対してピント位置では中心部の強度が高く、その直径は最小錯乱円よりも小さい。周辺部はソフトフォーカス効果の原因となるフレアっぽさを担う。実写では中心部の強度の高い部分のみが像の描画を行うため、この箇所での像が最もコントラストが高くなる(=ピント位置になる)。

 よく収差を補正された現代的なレンズでは最小錯乱円の位置=ピント位置と考えていいが、厳密には収差バランスによっては両者は一致しない。

 Peak Designの今年の新商品、トラベル三脚が到着した。
 同種のカーボントラベル三脚としてバンガードのVEO265CB(ディスコン)を持っているので、こちらとの比較を行う。

 小型軽量を売りにするトラベル三脚として最も重要な重量は、VEOが1.5kg、PDが1.27kgとPDのほうが軽量となっている。しかし実際に持ってみた感覚ではそこまで大きな差は感じない。


 ただ、収納サイズには大きな差がある。VEOの脚は一般的な円形断面のパイプだが、PDは異型になっており収納時に足を閉じた状態で一本の円柱状になるよう設計されている。この仕組みにより収納時の直径が非常に小さくなっている。
 収納時の全長も優秀だ。VEOを完全に畳んだ状態ではVEOのほうがPDよりも数mm短くはなるのだが、これはセンターポールを反転して収納した場合の話だ。センターポールを正位置にした状態では雲台の高さ分がまるまるプラスされ、PDよりもだいぶ長くなる。
 トラベル三脚では一般的なセンターポール反転、もしくは脚反転の機構、個人的にはカタログスペックを盛るためだけの実用に即しないものだと思っている。実際にトラベル三脚を使っている人でも、バッグ内にすっぽりと収納するのでもなければ反転は使わないだろう。私のように運搬がPDのEveryday Messengerであれば全長を縮める必要もないため、ただ手間になるだけだ。PD三脚の優れた点はこうした面倒な一手間無しでこの縮長を実現していることだ。
 脚の太さは最も太い脚でVEOがΦ26.0に対し、PDは概ね23.5×36.0となっている。最薄部はVEOよりも薄いが幅は広いため、曲げに対する剛性はおそらく同等レベル、ねじりに対してはPDのほうが優秀と思われる。
 耐荷重はカタログスペック上でVEOが8kg、PDが9.1kgとPDのほうが優秀だが、三脚の耐荷重に関しては規格が存在せずすべてメーカーの独自基準のためメーカーをまたいでの比較は不可能。参考程度に。


 脚をすべて伸ばした状態での高さはPDのほうが高い。エレベータを伸ばすとPDが1524mm、VEOが1500mmと多少差が縮まるが、三脚はできるだけエレベータを伸ばしたくないものなのでPDの高さは嬉しい。


 脚の縮長はほぼ同じなのにPDのほうが高くなるのはレバーロック機構の厚みが関係している。PDのほうがレバーの一つ一つの高さが低いため、その分伸びる長さを確保できているのだろう。


 しかしここでPD側のデメリットが2点出てくる。まずはエレベータの細さだ。実際に触ってみるとパイプの肉厚が厚いのか中実なのかはわからないががっしりした印象はある(というか円形断面でないので肉厚を上げるか中実にしないと簡単に凹んだり曲がったりする)。しかし厚肉小径パイプと薄肉大径パイプを比較すると、薄肉大径のほうが圧倒的に剛性は上になる。たわみで言えばパイプ直径の4乗に反比例するので、PD三脚のエレベータの細さであれば剛性はあまり期待できない。
 更にこの頼りないエレベータを使用したくない場合でも、自由雲台を使う場合はある程度エレベータを伸ばさなければいけない構造となっている。これは反転機構を使用せず縮長を縮めるための構造が原因だ。とはいえたわみは長さの3乗に比例するため、最低限の高さであれば影響は小さいだろう。
 雲台部分に関しては自由雲台になっており、操作部はアルカ互換クランプとクランプのロック部、自由雲台のロックリングとなっている。


 クランプはアルカ互換プレートを固定側に引っ掛けて可動側は上から押し付ければカチリとはまる。その状態でロックリングを回せば完全に固定される。アルカ互換はほとんどがネジでのクランプだが、これはワンタッチになっている。また、アルカ互換のワンタッチで一般的なレバーロックは相性問題が現れやすい。アルカ互換プレートは規格が存在しているわけではなく微妙に寸法が違うことがあるため、レバーロックではスカスカで固定できない、きつすぎてロックできないということがある。その点、このPDのクランプはワンタッチでありながら相性問題が現れにくい形式となっている。
 また、完全にロックする前のはめ込んだだけの状態でもある程度の保持力があり、滑り落ちて落下させる可能性が低くなっている。脱落防止に関してはそれ用のピンもあり、PDの正方形プレートを使う場合は脱落の危険はほぼゼロと言っていいだろう。三脚座がアルカ互換になっているようなものでは脱落防止ピンが邪魔になるが、そういった場合は六角でピンを取り外すことも可能だ。VEOの雲台ではピンの取り外しに関しては全く考慮していない作りだったため、こちらのほうがユーザーフレンドリーだ。
 自由雲台部はクランプ用ロックリング下部のローレットのあるリングが自由雲台用ロックリングになっている。この自由雲台で良かったところはロックリングを完全に緩めた状態でもフリクションがスカスカにならず一定のトルクを保っていることだ。VEOの雲台では緩めきるとトルクがスカスカなフリー状態になっていた。滑らかさに関してはアルカスイスなどの高品質な自由雲台を使用した経験がないので比較はできない。個人的にはスチルでの実用になんら問題はないと思う。


 しかしこの自由雲台はサイズを重視したためのデメリットも多い。一般的な自由雲台は縦位置のために90度傾けることができるようになっており、傾けた状態で自由にチルト(上下方向角度調整)ができる。PD三脚の雲台ではボールを保持する3点の固定具が邪魔になるため、縦位置ではグリップ側を上にする形でしか水平に固定できない。チルトするにも制限が生まれる。真下・真上にも向けられず少し角度がついてしまう。


 こうした極端な条件でなくとも、概ね45度以上の傾きでは制限が出てくる。これはコンパクトさを優先した結果なので致し方ない。私は購入していないが他社製雲台をつけるアダプタも用意されているので、不満であれば自分で自由に雲台を付け替えすることもできる。当然重量も大きさも増すが。
 頼りないと言ったセンターポールにも見るべきところがある。逆付け・ローポジションに対応し、中にスマートフォンホルダーを内蔵しており、フックがついている。


 フックは荷物をかけることで三脚の重量を増し、安定性を高めるためのものだ。フックのない三脚ではストーンバッグを取り付けて同様のことができるが、このために別途ストーンバッグを持ち歩かねばならない。付け外しも手間になる。私は一応持っているが使ったことはない。


 このフックはエレベータが抜け落ちないためのストッパーの役割も担っている。また、フックを外すと中にはスマートフォン用のホルダーが収納されている。



 このスマホホルダー収納部には磁石が仕込まれており、勝手に抜け落ちることはない。


 フックを外しセンターポールを抜くと、センターポールの逆刺しが可能だ。そのまま真俯瞰撮影ができる。また、センターポールは六角で2分割にでき、短くすればローポジション撮影ができる。


 この分割に必要な六角は脚にホルダーがあり、邪魔にならないよう収納可能だ。これは逆さまにしても抜け落ちない。この六角は大小2つのサイズが一組になっており、これだけで三脚の殆どのネジを回すことができる。


 こうしたローポジション撮影への対応はVEOでは別パーツの短いセンターポールへの換装が必要だった。非常に固く外しにくいセンターポールストッパーを外し、別途持ち歩かなくてはいけない工具で雲台を外し、収納する場所のない別パーツに雲台を取り付け、センターポールを差し替える。こんなことやってられるわけがない。


 PD三脚では確かに多少の手間はかかるものの、三脚に装着して常に携帯する工具一つで変更が可能なため、現場で行うにあたって現実的な手間となった。


 エレベータのロックネジも少し工夫がある。飛び出ていては収納時に邪魔になり、短ければ操作時に扱いにくい。その問題を解決するため操作時のみカチリと引き出すことができる。
 また、個人的に嬉しいのがカーボン三脚なのにレバーロックであることだ。カーボンのレバーロックは選択肢が少ない。私がVEOを買ったのはカーボンでレバーロックでアルカ互換だったからだ。PD三脚もこの3要素を満たす。VEOに比べロックレバーが長いことも高ポイントだ。テコの原理で少ない力で開閉できる。
 あと私は使わないがケース。Everyday Messenger等と同じ材質のようだ。アンカーを取り付けできるループがある。サイズはギリギリで三脚を収め直すのは少々手間になる。ちなみにアンカーは本体にもセンターポール先端のフックと脚の根元付近の2箇所に取り付けできる。
 ケース内には分解工具も入っている。砂を噛むなどして動きが悪くなったら使うだろう。
 PD三脚のいいところばかり書いたが、最後にVEOのほうが優れていた点を2点挙げよう。


 1点目は開脚角度のロックだ。VEOは側面のボタン式で3種類、PDはレバーで2種類しかない。通常用とローポジション用だけだ。階段など段差がある箇所では使い勝手が悪くなるだろう。


 2点目は石突だ。これはPDが劣っているというよりVEOが優れているのだが、VEOの石突はゴムをねじ込むことでゴム石突とスパイクを簡単に切り替えることができる。PDはネジによる固定で、標準はゴムになっている。スパイクは別売りのため私は買わなかった。

 こうして見るとPD三脚は非常に優秀で、不満点はほぼない。唯一自由雲台の可動域が残念だが、それはコンパクトさとトレードオフの要素だ。
 アルカ互換のトラベル三脚では最も高品質なものの一つだろう。流石に一番細い脚の太さを見ると心もとない気もするが、これはトラベル三脚だ。1.27kgという重さを考えれば十二分な役割を果たしてくれるだろう。