センサーサイズが大きいカメラはボケが大きくなりやすい。これは事実だ。
 だがしかし、現在中判デジタルとして主流である44×33mmのセンサーを持つカメラでは少々事情が異なる。
 現在、現行の中判デジタル用マウントはPENTAX 645マウント、FUJIFILM Gマウント、Leica Sマウント、HASSELBLAD Xマウント・Hマウントあたりだ。このうち、ハッセルHマウント以外はすべて44×33mmのセンサーを持つボディしかない。

 さて、センサーサイズの違いがボケ量にどのような変化を及ぼすかについては過去記事でまとめている。

フォーマットサイズによるボケ量の変化 | 五海里
https://illlor2lli.blogspot.com/2016/08/blog-post.html

 この記事では3パターン計算しているが、最初に挙げている同一換算焦点距離での違いが最も実用的な指標となるため、この条件で比較しよう。
 このパターンでは過去に書いたとおり、ボケの大きさはF値を換算倍率倍すればそのまま比較が可能となる。
 では44×33mmを35mm判に換算するための倍率はいくらになるかというと
sqrt(36*24)/sqrt(44*33) = 0.77
 となる。つまり中判用レンズのF値を0.77倍すれば35mm判用レンズと直接比較ができるし、逆に35mm判用レンズのF値を0.77で割れば中判用レンズと比較できる。
 そこで、35mm判用レンズで一般的に明るいレンズと言われるF1.4は中判用でどのくらいのF値に相当するかを計算してみると、F1.8のものと同等となることがわかる。(ライカSは45×30mmのためF1.75)

 では各中判用レンズのラインナップを見てみよう。
 645マウントで最も明るいレンズはMACRO 90mm F2.8 ED AW SRや75mm F2.8など。
 GマウントではGF110mm F2 R LM WR。(非純正ならば中一光学の65mm F1.4、85mm F1.2があるが)
 Sマウントではズミクロン 100mm F2。
 Xマウントでは85mm F1.9。
 どのマウントでも純正ではF1.8を下回るレンズが存在しない。明るくてF2程度までだ。中判でのF2レンズは35mm判でのF1.6程度のボケ量となる。
 それに対して35mm判用の明るいレンズではF1.4は当たり前、ミラーレスならばF1.2もF0.95も存在している。

 中判には中判のメリットがある。しかし、ことボケ量においては実は35mm判に対してのメリットは存在しない。
 ラージフォーマット = ボケが大きい、のイメージに凝り固まっていると盲点となるが、薄い被写界深度を求めるのであれば買うべきは中判ではない。35mm判だ。

 ひょんなことから安く中古が手に入った。セコニックの分光色彩照度計、C-7000。
 これは光源のスペクトル、演色評価、CIE1931、CIE1976を計測できる。このうちCIE1931とCIE1976は私はよく分かっていない。ディスプレイの色域関係の話で見たような気もする。
 とりあえず手近な光源のスペクトルを調べてみることにした。

 まずは太陽。窓ガラス越しに計測。



 窓ガラス越しであることが影響してか380nm付近の紫外線の波長は多少落ち込んでいるが、さすがの演色性だ。

 次に私が使っている日立のシーリングライト。「まなびのあかり」というモードを搭載しており、Ra92を謳っている。



 公称のRa92を超えRa93.1という計測結果になった。スペクトルの全体像を見るとまさにLEDといった形で、450nmの波長に大きなピークがある。演色評価のグラフを見るとR9が63.5と落ち込んでいるが、人工光源でこの数字ならば優秀な方だ。

 同じシーリングライトで「全灯」では以下の結果となった。



 日立のまなびのあかりを搭載したシーリングライトにおいて「全灯」とは2種類の白色LED全てを点灯するという意味であり、「まなびのあかり」ではそれに加え赤と青のLEDを追加で点灯させている。そのため「全灯」という名称だが全てのLEDが点灯しているわけではない。
 「まなびのあかり」と比較すると480nm付近と640nm付近の波長が落ちており、演色性も86.7と特に良いわけではない(ちなみに公称はRa85)。

 次に電球色LED。



 LEDによく見られる450nm近辺のピークは非常に少ない。ピークは608nmで長波長側のスペクトルが豊富かつ色温度も2500Kと低いが、R9は9.8と非常に低い。Raも82.8と芳しくなく、正確な色を得るための光源には不向きだ。

 では同じくらいの色温度だが演色性は高いと言われる白熱電球のスペクトルを見てみる。



 圧巻のRa99.1だ。今回の計測では太陽を超えてしまった。R9も96.4と非常に高い。
 個人的にはこのスペクトルで青系統のR4〜8とR12が高い(R12は文字が潰れて見えないが98.6ある)のが不思議に感じてしまうが、それは色温度2700Kという低さに現れている。演色性は高いものの色温度の低さから扱いにくい光源だ。

 次は昼光色LEDだ。



 THE・LEDのスペクトルといった風情だ。450nmに大きなピークがあり、Raは86.5とそこまで高くない。

 次は蛍光灯のスペクトルを見てみよう。



 こちらも典型的な三波長蛍光灯のスペクトルだ。こうして見ると演色性の観点から言えば蛍光灯はなかなかひどい。Raも78.9といままで登場したLED全てに負けている。高演色性を謳う製品ではLEDよりも蛍光灯のほうが演色性が高いことが多いため、通常の蛍光灯でもLEDより優秀な印象を勝手に持っていたが、その認識は改める必要がありそうだ。
 唯一LEDに勝っているかもしれない点は、ピーク波長が544nmという緑色の領域のため同じ光度ならば蛍光灯のほうが明るく感じられることがあるかもしれないというところだろうか。とはいえ実際は同じ大きさであればLEDのほうが光度は高いだろうし、消費電力も小さい。
 R9も9.0と低く、例えばトマトサラダやレアステーキなどはLED光源よりくすんで見えるかもしれない。食卓の光源にも向いているとは言い難い。ダイエットがしたいなら優れているかもしれないが。
 ちなみにLEDには450nmに大きなピークがあり、一昔前からこれを指して「ブルーライトが多く目に悪い」とする風潮があるが、かなり眉唾だ。
 ブルーライトの有害性を謳うWebページの中には「強いエネルギーを持っており、角膜や水晶体で吸収されずに網膜まで到達します」などと書いてある。バカか。網膜で光を受けずにどうやって物を見るのだ。全ての可視光は網膜まで到達しているに決まっている。ついでに言えば赤い光よりも波長が短いブルーライトのほうが角膜や水晶体で吸収される割合は高いだろう。こんなおつむがパーなことを平気で書いている時点で主張の信憑性に大きな疑義が出る。
 だいたい、一番最初に載せた太陽のスペクトルを見て欲しい。ガラス越しでもLEDなんかよりもよっぽどブルーライトや紫外線にあふれている。ブルーライトが有害ならば太陽のほうがよっぽど有害である。
 ただし、人類の歴史の中の大部分で太陽以外の光源は火くらいしかなかった。目へのダメージという観点では一笑に付すが、従来は太陽にしか含まれていなかったブルーライトを受けることによって体内時計が狂い睡眠に支障が出る可能性までは否定する気はない。
 しかし諸々のメリットを考えればもはや三波長蛍光灯を使うメリットはあまりないのではないだろうか。

 このC-7000はストロボ光の測定もできる。そのため手持ちのEF-610 SUPERとEF-630も計測した。
 まずはEF-610 SUPER。



 さすが写真撮影専用の光源である。Ra97.8と非常に演色性が高く、R9の数字も93.6と素晴らしい数字だ。400nm以下のスペクトルが低いが、このあたりはほとんど紫外線なので気にしなくていいだろう。
 しかし色温度が6500Kとかなり高めなのが少々気になる。昼白色の光源の中で追加で使うならばフィルターで色温度を少し落としたほうが良いかもしれない。

 では後継機のEF-630のスペクトルを見てみよう。



 EF-610 SUPERとほぼ変わりはない。同じSIGMAのストロボのため光源は共通なのだろう。

 今回C-7000を手に入れて手近な光源を計測してみた。こうして比較してみると蛍光灯のスペクトルが非常にスカスカなのが気になってしまった。私の家では直管蛍光灯以外のほぼ全ての灯りをLEDにしているのだが、これは正解だったようだ。
 また、予想外だったのがこのC-7000、Mac用のユーティリティソフトがないのだ。C-700やその後継であるC-800はMac用が用意されているのに、このC-7000だけ無い。なぜだ。数年ぶりにWindows機を引っ張り出すはめになってしまった。

 さて、これで光源のスペクトルや演色性を確認する術を手に入れたわけだが……正直、特に活用するあてがない。どうしよう。

 私のメインのカメラバッグはPeak DesignのEveryday Messengerだ。これはカメラバッグとしてのみならず普段遣いのバッグとしても利用している。
 しかしKickstarterで購入したもののため、すでに4年弱使用している。まだまだ使えはするものの擦り切れそうな部分も出てきた。そのため、今年のKickstarterで買い換えることにした。
 新しいものが届き古いものと見比べたところ、仕様が変わっている箇所が想像以上に多かったため変更箇所をまとめる。


 まずは公式にもアナウンスされていた背面について。新しいものはキャリーバッグの取っ手に通すことができるループが追加されている。事前に知っていたのはこの仕様変更だけだ。
 また、写真でもわかるが旧バージョンは背面のみ材質が異なっていた。前面・側面はやや撥水効果がある布だったが、新バージョンでは背面も同じ材質が使われている。


 次に細かいデザイン面。底部は防水・耐摩耗の素材が貼り付けられているが、新しいものは背面の固定具がなくなった。


 全面フラップの「peak design」と書かれたタグもわずかにデザインが変わっている。


 三脚を通す部分、ゴムバンドを入れる箇所に「the everyday messenger 15"」のテキストが追加されている。これは13"のサイズが追加されたときに変更されたものだろう。また、このポケット表側がやや伸縮性がある材質に変更されている。このためこの部分の収納容量がわずかに上がっている。


 ポケットの内部も色が変わっている。


 金具の色も変わっていた。写真では旧に傷があることもあってわかりにくいが、旧はシルバー、新はガンメタになっている。


 背面のポケットも仕切りの材質が変わっている。これは三脚用ゴムバンドのポケットと同じ材質になっているため、もしかしたら耐摩耗性が高い材質なのかもしれない。
 この仕切は旧ではマジックテープがあったが、新では無くなっている。



 また、旧型ではこの背面ポケットは左右にペンなどを入れられる程度に仕切られていたが、新では背面から見て右側の仕切りが無くなった。左側には残っている。


 ベルトの取付部内側の処理も変わった。古いものは金具に当て布があったが、新型では金具が露出している。内容物と金具が直接触れる可能性がある。


 ここからは機能面にも関係する部分だが、底部も少し変わっている。
 新旧の写真を見比べればわかるが、旧のほうが形がしっかりしている。底部にはおそらくプラスチックの芯地が入っていると思われるが、新しいほうが柔らかいものになっているようだ。このため柔軟性が増している。



 前面ポケットの中は仕切りのゴムが変わっており、布地も厚みが増している。古い方は頻繁に使用しているとゴムが伸び切ってしまいそうだったが、新しい方は強度が増しているようだ。
 ただし、このおかげで伸縮性は犠牲になり仕切りに入れられる容量はかなり減ったと思われる。


 一番大きな変更は側面ポケットだろう。この写真からは下部にマチが追加されているため容量が微増したことがわかる。


 また、左右ともに赤丸部分にマグネットが埋め込まれ、軽くではあるがポケットが閉じるようになった。


 スタビライザーの収納部分も変更されており、側面ポケットと共通になった。古いものでは側面ポケットとスタビライザー収納スペースは仕切られており、スタビライザーのスペースが非常に狭かったため出し入れがかなりの手間だった。
 この変更によってスタビライザーの出し入れが楽になったが、側面ポケットへ収納したものとスタビライザーの金具が直接触れるようになった。また、ごく小さなものを入れるとスタビライザーの出し入れ口からこぼれる可能性がある。


 旧バージョンの一番の問題点だったであろう溶ける滑り止め。Everyday Messengerではあまり聞かないが、同じ材質だったSLIDEでは溶け出した滑り止めが服を黒く汚したという報告がある。これは洗濯しても落ちない。
 この滑り止めはおそらくであるが材質が変更されたように思える。とはいえ見ての通り旧品は4年弱の使用ですでに溶けており元の状態を思い出せない。まあSLIDEでは変更されているし、Peak Designがこの問題を放置するとも思えないので対策されているんじゃないだろうか。


 機能面での最大の変更はFlex Foldが二重の新型になっていることだ。
 個人的にはこの二重のFlex Foldは活用したことがないため、ただ厚ぼったくなっただけに感じてしまう。

 今回、Kickstarterで購入した最初期のものと最新のものを比較したが、公式にアナウンスされている箇所以外にも多くの箇所が変更・改良されていることが分かった。中にはコストダウンと取れるものもあるが、全体的には使い勝手を向上させるためのものがほとんどだ。
 新製品でないものに対しても細かな改良を続けてより良い製品にしようという意思が感じられる。さすがPeak Designだ。
 近年、カメラにおいて一眼レフという形式は下火だが、未だに一眼レフでしか得られない光学ファインダーには一定の人気がある。
 その光学ファインダーだが、性能を決める要素には大きく分けて光学系の設計とフォーカシングスクリーンの拡散性能の2種類がある。今回はこのうちスクリーンの拡散性能とは何かについて解説する。

 まず、一眼レフの光学ファインダーをシンプルに表現すると交換式レンズが対物レンズ、ファインダー光学系が接眼レンズのケプラー式望遠鏡であると言える。本来ケプラー式望遠鏡で見える像は倒立像であるが、ミラーとプリズムでの反射によって正立像となる。望遠鏡と違うのは焦点位置にフォーカシングスクリーンが設置されている点だ。
 これをミラー・プリズム等の要素を省いて簡略化して表現したものが下図である。


 さて、フォーカシングスクリーンの役割は光を拡散させることであるが、そもそもなぜ光を拡散させる必要があるのか。仮に拡散性がゼロの素通しスクリーンで考えてみよう。


 人間の目の瞳孔径は最大で約7mmと言われている(このせいで人間の目のF値がF1.0であると言われているのは嘘であるとわかるのだが、この話はまたの機会に)。
 この状態では上図の赤の範囲を通る光しか瞳孔に到達せず、撮影レンズの周辺部を通る光は目で確認できない。
 具体的にはファインダー倍率A倍(50mm時)、瞳孔径7mmで見えるF値は50÷7Aとなる。

※参考
 接眼光学系側の赤線の直径は瞳孔径=7mm。撮影レンズ側の赤線の直径をd、撮影レンズ側の焦点距離をf1、接眼レンズ側の焦点距離をf2とするとd÷f1 = 7÷f2。dについて解くとd = 7×f1÷f2。
 対物側赤線範囲のF値はf1÷d = f1÷(7×f1÷f2) = f2÷7となり、接眼側F値と同一となる。
 接眼側焦点距離f2はファインダー倍率定義より50÷Aのため、F値は50÷7A。
 交換レンズの焦点距離が50mm以外でも赤線の直径も変わるためF値は変わらない。

 実際に計算するとEOS Kiss X10の0.87倍ではF8.2、SD1の0.95倍ではF7.5、EOS 5D4の0.71倍ではF10だ。このF値よりも明るい部分の光束は下図のように瞳孔に到達できない。


 いずれにしても、拡散が全く無いファインダーではF1.4クラスのレンズでピント合わせはとてもできるような数字ではないということがわかるだろう。

 そこでフォーカシングスクリーンに拡散性をもたせることが必要となる。
 スクリーンで光が拡散すると、上の図で確認できなかった光束でも一部が瞳孔まで到達するようになる。下図の青色が拡散後の光だ。


 ただし、拡散性能が低ければ同じ位置からの光でも瞳孔まで到達しないし、同じ拡散性能でも下図のようにより外側の光束は確認できない。


 この拡散性が強ければより外側の光も確認できるようになるためピント合わせが容易になる。しかし、拡散性が強すぎると瞳孔よりも外側に行ってしまう光の成分が増えるため、暗くなる。これがフォーカシングスクリーンの拡散性能となるわけだ。

 本ブログでは過去にこのスクリーンの性能を実測した事がある。

フォーカシングスクリーンの拡散性を実測する | 五海里https://illlor2lli.blogspot.com/2015/11/blog-post_62.html

 できればいろいろなカメラを持っている人にこの実験を試してほしいと思っているが、他に実測をしてみた人を見たことがない。

 被写界深度の計算に出てくる要素、許容錯乱円径。
 このパラメータは一般的に35mm判で0.03mm、あるいは1/30mmとされることが多い。私はデジタル時代になった今も基本的にはこの数字のままで問題ないと思っている。
 しかし、この数値の妥当性に疑問があるのか独自の定義をしたがる人がいる。その中でも「許容錯乱円径 = その機材で再現できる限界の解像度」という考え方をたまに見る。
 曰く、「許容錯乱円径は撮像素子の「画素ピッチ」または「エアリーディスク径」の大きい方で決まる」、「プリンタの出力解像度から逆算して決まる」といった具合だ。
 これは明確に間違いである。

 ボディの画素ピッチが許容錯乱円径となると考えよう。
 まず、画素ピッチが違うカメラとしてα7SII、α7RIIIのセンサーサイズ、画素数を記載する。
α7SII:35.6×23.8mm、1240万画素
α7RIII:35.9×24.0mm、4360万画素
 これらの画素ピッチは計算すると以下になる。
α7SII:sqrt(35.6*23.8/12400000) = 8.3μm
α7RIII:sqrt(35.9*24.0/43600000) = 4.4μm
 さて、この画素ピッチがそのまま許容錯乱円径になると仮定しよう。
 50mm F1.4、ピント位置10mの条件での被写界深度は
α7SII:931mm
α7RIII:493mm
 となる。(なお、レンズは無限の解像力を持つと仮定する)
 おかしいと思わないだろうか。同じレンズ、同じ絞りで、ボディが違うだけで被写界深度が倍ほど違う。
 それもそのはず、これは被写界深度ではなく「1px単位で解像する範囲」を示しているだけなのだ。これが意味を持つのは写真をモニターにドットバイドットで表示したときくらいである。その状態では画素数の多いα7RIIIのほうが1.8倍ほど大きく引き伸ばしており、比較条件に大きな違いがある。当然、同じ大きさで鑑賞するならば被写界深度に違いなど出ない。

 次にレンズの最小錯乱円径が許容錯乱円径になる場合だ。(私の見た原文ではエアリーディスク径とされていたが、エアリーディスクは収差を考慮しないF値のみで決まる値であり、写真用レンズでは小絞りボケを生じる大きなF値でしか意味はない。現実には収差の影響があるため最小錯乱円径とするのが正しい)
 こちらは更に意味がない。
 まず「最小錯乱円径 < 画素ピッチ」では原文通り画素ピッチしか意味を持たず、その場合は前項に示すとおりとなる。
 逆に「最小錯乱円径 > 画素ピッチ」の場合、その最小錯乱円径となる範囲はピント位置のみである。少しでも前後すれば像面の錯乱円は最小錯乱円径よりも大きくなる。この考えでは被写界深度は厚みを持たない平面となり、深度もクソもない。

 ではプリンタの解像度からの逆算ではどうか。
 写真用プリンタとしてPIXUS PRO-10Sのスペックを見てみよう。最高解像度は4800×2400dpiと記載されている。そこで低い方の解像度である2400dpiで考えよう。
 写真をA4に印刷すると仮定する。A4用紙は210×297mmであり、これに24×36mmの35mm判撮像面で撮影した像を一杯に載せるとすると拡大率は8.25倍となる。(用紙上下には余白ができる)
 2400dpiを画素ピッチに換算すると約0.01mmとなる。これを35mm判の像面で考えるために8.25で割ると、像面での画素ピッチは約0.00128mmである。これは35mm判で5億2500万画素となる画素ピッチだ。A3で計算すれば10億画素。いかにアホなことを言っているかわかるだろう。

 では、許容錯乱円径とはどのように決まるのか。これには明確な正解はない。
 しかし一つの指標としてCIPA(一般社団法人カメラ映像機器工業会)の規格内にある記述を紹介しよう。

CIPA DC-011 デジタルカメラの手ぶれ補正効果に関する測定方法および表記方法: ホーム(概要)
http://www.cipa.jp/image-stabilization/index_j.html

写真の世界では、いわゆるボケの判定をおこなうとき、「錯乱円径」を用いることが多く、ボケやぶれが判別できない最も大きな錯乱円を「許容錯乱円」と呼ぶ。許容錯乱円の大きさは、鑑賞する写真の大きさや鑑賞距離、算出根拠等により異なる数値となるが、一つの例として、35mm フィルム上で 31.4μm というデータ*1 がある。
*1) 世界で最もポピュラーなポストカードサイズの写真を鑑賞する際、目と写真の間の平均的な距離は 450mm 程度とされている。この場合、視力 1.0 の人が判別できる 2 点 間の最小距離[μm]は、
 tan(1/60)×450×1000/4.16 = 31.4
である。ここで 4.16 は、ポストカードサイズと 35mm フィルム 1 コマの対角長の比(180/43.3)である。

 とされている。一般的に言われる0.03mm、1/30mmとほぼ同じである。
 また、本ブログの過去記事でも同じように視力1.0を基準として算出したことがある。

被写界深度の計算、許容錯乱円径をどのように設定するか? | 五海里
https://illlor2lli.blogspot.com/2015/11/blog-post_25.html

 この記事ではA4以上の大きさに印刷した際に、それ以上近づいても意味がないギリギリの距離まで近づいた際に視力1.0の人間が判別できる大きさを算出した。
 結果は0.015mmと一般に言われる値の半分となった。これは許容錯乱円径の下限と考えていいだろう。

 過去記事にも書いたが、許容錯乱円径は出力サイズと鑑賞距離によって変化する。
 しかし、機材は関係しない。このような勘違いをしていた人はいかにナンセンスな考えだったかわかってもらえたのではないだろうか。

【追記】
 「許容錯乱円径は撮像素子の「画素ピッチ」または「エアリーディスク径」の大きい方で決まる」という意見が散見される原因と思われるものを見つけた。
 東芝テリーの資料に以下の記述がある。

知っておきたい撮影レンズの基礎
http://www.toshiba-teli.co.jp/products/industrial/info/t/files/t0005_Lens_Terminology_j.pdf
“許容錯乱円径”は撮像センサーの“画素ピッチ”,あるいは“エアリーディスク径”といわれるレンズの光学的な 結像限界で決まり,“画素ピッチ”,あるいは“エアリーディスク径”の大きい方が“許容錯乱円径”になります14。
14 日本インダストリアルイメージング協会技術報告書 “JIIA LER-006-2010: 焦点深度のパラメーター”による。

 ここに記載されている日本インダストリアルイメージング協会の規格でこの内容が謳われているようだ。そこでこの規格を調べてみたのだが、会員でないと閲覧できなかった。
 しかしこの規格番号で調べてみると東芝テリーの別の資料を発見した。

マシンビジョンにおける被写界深度の考えかた
https://www.toshiba-teli.co.jp/technology/technical/t0008-DOF.htm
写真業界では,デジタルカメラが主流である今日においても,銀塩フィルムと同様に,“ある大きさの印画紙にプリントし, ある距離において目視で鑑賞する”ことを前提とした許容錯乱円径の値が一般的に使われています3。しかしマシンビジョ ンでは,各画素のデータを用いて画像処理を行うことから写真同様に目視を基準とはできず,許容錯乱円径は撮像 センサーの“画素ピッチ”,あるいは“エアリーディスク径”といわれるレンズの光学的な結像限界で決まり,“画素ピッチ”, あるいは“エアリーディスク径”の大きい方が“許容錯乱円径”になります4。
3 例えば 35 mm カメラ相当のイメージサイズでは画面対角線の 1/1300 である 0.033 mmなど。この場合,画素ピッチについては考慮されない。

  要するにこの資料では「写真と画像処理目的では被写界深度の考え方は別」「写真目的ならば許容錯乱円径の一例としては0.033mmが一般的」ということが述べられている。
 確かに画像処理を前提に考えれば1px単位で解像している範囲のみを被写界深度とするのは妥当と思われる。が、それはあくまで機械で処理する場合の話であり、一般的な写真用途にまで敷衍するのは考えが足りていない。
 また、余談になるがこの規格自体もマトモとは言い難い。画素ピッチはいいのだが、エアリーディスクを基準にするのは問題がある。
 その理由はすでに書いたが、まずエアリーディスクはレンズの諸収差を無視した値であることが挙げられる。確かに規格として策定するにあたり最小錯乱円を基準とするとレンズによって値が変わるうえ、同じレンズでもピント位置によっても変化するため面倒である。エアリーディスクならばF値のみで一意に決まるため楽になる。しかし正しさはない。
 次に収差のない理想レンズであったとしても錯乱円がエアリーディスク径以下になる点はピント位置のみとなるため、被写界深度が厚みのない平面となることだ。
 いずれにしても許容錯乱円径の設定にエアリーディスクを用いるのは問題しかない。

 つまり画像処理前提の考え方を一般の写真に適用することがまず間違いであるし、そもそもこの規格自体考え方がおかしいということだ。
 世はミラーレス全盛期。大手二社を含めた各社がフルサイズミラーレスをラインナップし、SIGMAも来年にフルサイズミラーレスを出す。もはやミラーレスをラインナップしていないのはPENTAXくらいになった(現行品では。Qってまだ生きてたっけ?)。
 さて、ミラーレスは構造上常にセンサーで光を受けている。そのため、太陽を写したままの状態ではセンサーを焼いてしまう危険がある。実際にセンサーを焼いた例は検索すれば出てくるだろう。なぜか富士フイルム機とオールドレンズの組み合わせが多いようだ。
 ではセンサーを焼かないためにはどのようなことに気をつければよいだろうか。これに関しては誤った情報が堂々と流布されており、真に受けてしまうと高価なカメラを壊す危険性がある。ここで正しい情報とその理屈を解説する。

 結論から書くと、注意する点は
・実絞りならばできるだけ絞る
・ピント位置は近接状態とする
 の2点だ。
・太陽に向けたままにしない
・使用しないときはレンズキャップを付ける
 は言うまでもない。
 これはレンジファインダー時代は常識であったようだ。

 ではなぜこんな記事を書いているか。それはセンサー焼けを調べると「絞りは絞られている状態のほうが焼けやすい」などという大嘘が出てくるからだ。
 このような思考に至る理由は理解できる。「絞ると像がシャープになる = 光が一点に収束している = 焼けやすい」と考えたのだろう。光が一点に収束すると焼けやすいことは合っているが、絞りにより錯乱円が小さくなるのは違う現象だ。


 単レンズの出しっぱなしアンダーコレクションを例として挙げる。誇張して描いているが、レンズ周辺部を通る光は球面収差により近軸領域での焦点距離よりもかなり手前で収束する。この影響で像面での錯乱円は大きくなる。


 像面部を拡大したものと、開放での錯乱円を示した。(最小錯乱円及び最もコントラストが高くなるピント位置はこの図とは違うが、ひとまず近軸領域での焦点距離に像面があるものとして作図している)
 では、このレンズを絞るとどうなるか。絞りにより遮蔽される光束を灰色で示す。


 直径の半分程度(約2段分)まで絞った場合、右に示す錯乱円の直径はかなり小さくなる。確かにこれだけを見ると光が一点に収束したように見えてしまうが、それは間違いだ。単位面積あたりの光束の強度(照度)という視点が欠けている。


 レンズ周辺部を通過する光束は錯乱円の灰色で示す領域に照射されているだけであり、赤色の中心部の強度には寄与していない。つまり絞ろうが絞るまいが赤色部分の照度は変わっていない。むしろ、開放では周辺部も熱されるために最も照度の高い中心部から熱が逃げるのを阻害し、焼けるリスクを高める。
 また、この図はとりあえず球面収差がアンダーコレクションの例を挙げたが、フルコレクションやオーバーコレクションの場合はレンズ周辺部を通る光も錯乱円中心の照度を上げるのに寄与している。


 これが球面収差フルコレクションの概要図だ。赤丸の部分はレンズ最外周部の光束だが像面で錯乱円中心部を通る。そのため、絞ることによって錯乱円中心部の照度を下げてセンサー焼けリスクを低減できる。
 これは各レンズの収差設計によって変わるため一概には言えない。しかし全レンズに共通して言えることは「絞ることで像面へ到達するエネルギーの総量を減らすことができ、センサー焼けリスクを低減できる」ということである。

 「レンズ交換時に焼ける」という情報もある。レンズ交換によりバックフォーカスが長くなった状態で無限遠にある太陽にピントが合う状況は、レンズのピント位置がオーバーインフのときしかない。MFのオールドレンズであればオーバーインフにできないものが殆どであるし、そもそもセンサー焼けを気にするのであればピント位置は無限遠から外しておくべきだ。オーバーインフになるAFレンズでは関係あるだろうが、あまり気にしなくてもいいだろう。
 レンジファインダー機であったならば焼けるのはセンサーではなくシャッター幕であり、シャッター幕はセンサーよりも手前に位置しているためレンズ交換時に焼けるリスクは高くなる。しかしミラーレスには当てはまらない(EOS Rシリーズを除く)。
 また、太陽の輻射は波長約500nm(青と緑の間)をピークとする可視光の領域がほとんどであるため、「可視光が収束している = 熱も収束している」と考えて差し支えない。赤外領域が主になるような色温度の低い物体の輻射熱ではレンズ交換時のリスクは高くなるが、それでセンサーを焼くほどのエネルギーがあるかは疑問だ。

 「絞ると焼ける」という情報はレンズの原理など全く理解せずなんとなくの感覚で語っているだけの妄言である。効果がないどころかリスクを高めるだけの行為を、さも理屈上も正しいかのように語り推奨するのは無責任であり害悪と言っていい。
 この妄言を信じてセンサーを焼いても発言者が修理代を持ってくれるわけでもない。自分の高価なカメラを壊さないためにも正しい情報を得て、また各情報の妥当性を自分の頭で考えるようにしたいものだ。