Foveon X3 Merrillの色被り

  • Foveonセンサでの色被り

【SIGMA SD1 Merrill, Unknown (0), @0.0 mm F1.0, 1/5000, ISO100, 0EV】
SOLIGOR WIDE-AUTO 28mm F2.8(M42) @F2.8

 Foveon X3 Merrillセンサーを搭載したSD1 MerrillではM42レンズ等をアダプタを介して撮影した場合や、SAマウントでも古いレンズを使用した場合に紫被りや緑被りが発生する。要するにレンズ情報が取得できない場合にこの現象が起きる。
 この現象は広角か望遠か、もしくは同じ焦点距離でもレンズやピント位置、光線状況によって程度が異なるが、すべてのレンズで発生している。つまりセンサ側の問題である。通常撮影時にこの現象が発生しないのはレンズ情報から補正をかけているからだ。これは通常のSAマウントレンズをしっかりとマウントせず、電子接点が利用できない状態で撮影することで確認できる。

【SIGMA SD1 Merrill, 8-16mm F4.5-5.6, @16.0 mm F5.6, 1/6, ISO100, 0EV】

【SIGMA SD1 Merrill, Unknown (0), @0.0 mm F1.0, 1/10, ISO100, 0EV】

【SIGMA SD1 Merrill, Unknown (0), @0.0 mm F1.4, 1/5, ISO100, 0EV】


 同じレンズ・同じ条件で適当に三枚の写真を撮った。一番上がレンズを正しくマウントした状態、その下2枚がレンズをロック位置からずらした状態だ(EXIFを見るとレンズ名がUnknown (0)となり何のレンズで撮ったかカメラでは判別できていない)。二枚目では1段ほど露出がアンダーになったため、三枚目では+1段している。
 アンダー気味な二枚目は一目瞭然だが、三枚目も色被りが発生していることが分かる。
 なお全てRAW内埋め込みjpgであり、二枚目の写真もRAWをSPPで補正すればそれなりに見れるようにはなる。その場合は写真下部が緑被りするのだが。


  • 推測される原因

 この色被りはどういった原因で発生するのか。これはレンズのテレセントリック性によるものと推測している。
 まずFoveonセンサの構造についてだが、三層構造になっていることは周知の事実として、より現実に近い構造図は下記Webページに紹介されている特許の図であろう。
フォビオンセンサーの厄介さ
http://www.higashino.jp/photo/sd10/dcx3/x3/


 この図ではB層が薄く、R層が厚くなっている。全体の厚みは2μm、各層の厚みは上から0.2μm、0.4μm、1.4μmとある。
 では光が垂直に入射した場合と45度斜めに入射した場合を考える。なお、可視光線の範囲の波長はR層深さの2μmまでで全て吸収できることとして考える。

垂直入射

斜め入射(45度)

 見ての通り、光が各層を通過する長さが斜めに入射する場合には変わっている。
 具体的には下図の通りとなる。


 斜め入射の場合、B層・G層は本来吸収するべきでない深さの波長を吸収してしまっている。R層に関しては「2μmで可視光線を全て吸収する」という前提が正しいかわからないためあまり信用出来ない。マウント部のIRカットフィルタの特性によっても変わるはずだ。
 この現象のため、各波長をまんべんなく含んだ太陽光のような光源では光が斜めに入射する画像周辺部でB・G成分の出力が増えることで青緑色に変色する。また、AWBが周辺部の緑被りの影響を受け、本来正常な色である中央部を紫色へ変色させる。
 白色光以外でも概ね緑色に転ぶはずである。オレンジの場合は下図のように分光されてしまうのではないかと思われる。


 矢印の上側が正常な分光、下が斜めに入射した際の分光である。
 本来はR成分となるべき領域がG成分に振り分けられてしまう。
 三波長形蛍光灯のように特定のスペクトルだけが突き抜けて多い場合は影響が大きいような気がする……

 と、以上に示したものがFoveonにおける緑被りの正体なのではないかと思っている。理屈は合うのでそこまで間違ってはいないと思うのだが、どうだろう?


  • 補正による弊害はあるか?

 この問題はFoveon X3 Merrillセンサを積んだ全てのカメラ、すべての写真で発生している。一見正常に見える写真もカメラ内部・SPPで補正された状態のものだ。そのため、アダプタ等を利用しない通常の撮影でも弊害がある場合は把握しておいたほうがいい。
 この現象により発生する問題は三点考えられる。

1. 写真周辺部の赤のS/N比が悪化する
2. 色再現性に悪影響を及ぼす
3. アダプタ等を利用した場合に写真の色味がおかしくなる

 1のS/N比は高感度撮影において問題となってくると思われる。
 とはいえ、Foveon機でISOを無理に上げる人はいないだろう。私も自分で撮影した写真の中で最も感度が高いのはISO400だ。この程度では特に問題を感じることは無かった。
 ISOを1600程度まで上げて周辺部に赤い被写体を配置すれば影響が確認できるかもしれないが、面倒なのでやらない。

 2の色再現性は「考えられる」というレベルで使用時に気になったことはない。
 それにもともとMerrill機の色再現性はあまりよくない。全体的に暖色に寄るようだ。そういった問題を抱えるカメラであるゆえ、そもそも厳密な色再現性を必要とする人はこのカメラを使うべきではない。
 Quattroでは色再現性も良いようなのでSD1後継機を早く出して欲しいものだ。

 3のアダプタ使用時だが、これはもう諦める他ないと思っている。CornerFixというソフトで補正が可能だが、色かぶりの範囲・程度は撮影条件によってかなり変化するらしく、とても補正しきれない。手間もかなりかかるため枚数が多い場合は御免こうむりたい。
 トップの写真を補正したものが下記の写真だが、まだ左端付近に緑の色被りが残っている。色味もおかしい。
 テレセントリック性などなんら考慮されていないフィルム時代のレンズであるためここまでひどいのかもしれない。

_SDI9471

 どうしてもアダプタで使用したいレンズがあるならば他のカメラを使うか、モノクロで撮るべきだ。


  • レンズ情報があるのに補正が掛からない?

 一度だけ、Art 18-35mm F1.8を使用している時にRAW内埋め込みjpgが明らかに色被りしている写真が撮れた。

【SIGMA SD1 Merrill, Art 18-35mm F1.8, @19.0 mm F1.8, 1/5, ISO100, 0EV】

 レンズがマウントできていなかったわけではない。EXIFにレンズ情報も残っている。RAWをSPPで開くと問題ない。なのに埋め込みjpgがこのありさまだった。
 SD1で撮るときは全てRAWで保存しているのでjpgがダメでもどうでもいいのだが、あまり気分の良いものではない。
 SIGMAにRAWを送ってみたほうがいいのだろうか。

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