STFの弱点


 SONY(MINOLTA)にはSTFという名レンズがある。
 これは光束周辺部を減光することでとろけるようなボケ味を作り出すものだ。
 同じボケ味改善の効果があるものにDC-Nikkorがあるが、これは球面収差の程度を変えることによって効果を得るもので、STFとは全く原理が違う。
 DC-Nikkorは改善できるのは前ボケ・後ボケのどちらかのみ、かつ収差を加えているため解像力が悪化する。対してSTFは前ボケ・後ボケ両方を同時に改善し、かつ収差の大きい周辺部が減光されることで解像力も向上する。デメリットとしては暗いためシャッタースピードが稼げないことくらいだ。(MFレンズであることは135mm特有のものでSTFの原理からくるものではない。ただしF5.6部分の光束も多少減光されているので、位相差AFが可能な最低輝度が他のレンズより高くなることは考えられる。)

 トップの写真はSTFによるものだ。後ボケも前ボケも非常に滑らかで美しいボケだ。
 しかし、左端の彼岸花の右側にやや違和感を覚える描写がある。


 ここだけボケのエッジが立ってしまっている。ほかのボケが滑らかであるだけあって、ここだけ異質に思えてしまう。

 この描写の原因を考える前に、STFの原理をざっくりと説明する。


 簡便のためレンズは一枚の凸レンズで表している。
 光軸中心・無限遠からの光束が入射する様子を表した図だ。STFではレンズの周辺の光を減光するため、像側の光束の断面を見ると上の丸のようにエッジが現れない。これがとろけるようなボケ味につながっている。通常のレンズでは濃度が均一な丸になる。
 (実際のSTFにおいて減光を担うAPDエレメントは均一な濃さの凹レンズになる。)

 次に点光源の後ボケ状態の模式図を示す。


 ピント面以外からの点光源は像面で焦点を結ばないため、ボケになって写る。

 さて、冒頭のエッジの目立つボケがどのような条件で現れるかだが、これは光源とレンズの間に障害物を置くことで説明できる。


 図はまっすぐな棒状のものを置いた際の模式図である。障害物によって光束の一部が遮られることで、光線の強度が高い中心部でエッジが発生してしまう。
 この障害物がピント面にある場合は、ボケの欠けた部分を障害物が埋めるためにボケが欠けたとは認識されない。しかし前ボケとなる領域にある場合はボケの欠けが目立ってしまう。特に障害物と背景が同色の場合には顕著となる。

 冒頭の写真の場合、おそらく前ボケで写っている彼岸花のおしべでボケが欠けたと思われる。障害物となったおしべ自体は前ボケとなって見えないほど溶け込んでしまったためにボケの欠けだけが残ったのだ。

 このボケの欠け自体はSTFに限らずどんなレンズでも発生する。しかしSTFの通常のボケが滑らかすぎるためにエッジが立っている部分が目立ってしまった。

 STFでボケのエッジを立たせないためには、このような光束の一部だけを遮る小さな前ボケは発生しないよう考える必要がある。とはいえ出先でそこまで考えて画作りをするのは難しい。STFにも弱点があるということだけ頭に入れておけば十分だろう。

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